プロフィール

宮野葵依

Author:宮野葵依
HN: 宮野葵依
性別: 女性
趣味:
音楽(=邦ロック、classic)
本、ゲーム

*自己紹介
   
基本的性格:

 寂しがり屋のうさぎ
 不思議天然系少女
 日本史好きな歴史バカ

邦ロック=音楽
読書、ゲーム
をこよなく愛しており
この3つがないと
生きていけない

お菓子作りが好きで
雑貨屋巡り、カフェ巡り
お茶会好き。

好きな場所:

横浜、吉祥寺、自由が丘
代官山、京都

 ★お気に入りなものは
   リラックマ
   リサとガスパール
   COBE COBE

音楽は邦ロック中心で
関東ライブには
よく顔を出しています。

洋楽は
ほとんど全く聴きません。

   
★ 好きなアーティスト
(=邦ロック中心)

フジファブリック、メレンゲ
ASIAN KUNG-FU GENERATION
ELLEGARDEN
BUMP OF CHICKEN
GOING UNDER GROUND
音速ライン、くるり
STRAIGHTENER、Plane
DOPING PANDA
THE BACK HORN
APOGEE、 Does
キャプテンストライダム
レミオロメン、aiko
BEAT CRUSADERS
Base Ball Baer
TRICERATOPS
Syrup16
9mm prabellum bulet
monobright
Brathman、leitmotif
坂本真綾、髭


★ 好きな作家

東野圭吾、市川拓司
島本理生、宮部みゆき
伊坂幸太郎、桜庭一樹
有川浩、豊島ミホ
山崎ナオコーラ
小手鞠るい、中村航
生田紗代、西尾維新
唯川恵、橋本紡
沢村凛、乙一
魚住直子、重松清
宮木あやこetc・・・


*日本の絵本作家では

あだちなみ、せなけいこ
新井良二、酒井駒子
山田詩子、石井桃子
コンドウアキ、どいかや
松岡享子、中川李枝子
山脇百合子、村岡康成
とりごえまり、小川未明
宮沢賢治、柿本幸造


★外国絵本作家さんだと

エリック.カール
ジョン.バーニンガム
ミシャル=エンデ
ジミー=リャオ
ルイス.キャロル
アンドレー.ダーハン
トミー.アンゲラー
ジーン.ジオン
マーガレット.ブロイ.
グレアム
ケビン=ヘンクス
レオ=レオニー
etc・・・

★好きなゲーム

金色のコルダ、
金色のコルダ2
金色のコルダ2アンコール
金色のコルダ2 f
金色のコルダ2 fアンコール


遥かなる時空の中で
シリーズ
(2,3,4/舞一夜
/十六夜日記)

QuinRose系
(アラビアンズ.ロスト、
クリムゾン.エンパイア
ハートの国のアリス+
クローバーの国のアリス)

ときめきメモリアル
Girs side 1、2

オレンジハニー
星色のおくりもの

翡翠の欠片シリーズ
/玉依姫奇譚
(翡翠の欠片、翡翠の雫
緋色の欠片2、3)

戦国無双

シャドウハーツ1,2

ペルソナ3、4


★好きな尊敬する漫画家

緑川ゆき先生が一番好き

モリエサトシ、藤間麗
高屋奈月
高尾滋、 谷川史子
羽海野チカ
呉由姫、望月花梨
椎名軽穂
小畑健、天野明etc・・・

*ちなみに、このサイト
ペタアリサイト化
していますが・・・

ハート、クローバを通して
管理人が

ペーター至上主義
カーティス至上主義な為

裏は、SSほとんど
この2人・・・。。
ペタアリの方が
めちゃ多いですね。

白兎、カーティス贔屓(笑)

*ここからは
注意書きです。

必読お願いします!

このサイトで、SSで
純粋なものを
希望されてる方には
オススメできません。

中には純粋なものも
ありますが・・・

*R指定物が多々
ほとんどですので
この類のものが
苦手な方は
即刻、お帰り下さい。

あくまで、ここは
管理人のSS
ブログサイトであり
管理人のイメージ+
原作の流れを
組み合わせて
構成されています。

同じキャラが好きで
であっても
イメージが壊れる
可能性がありますので
自分の中に
キャライメージがある方も
オススメできません

このサイトは
今まで上げて来たSS
構成されてきた通りの
SSをこれから先も
変わらずに
上げていきます

構成、形式に関しても
方向性を転換
考え方の転向は
私自身、ありません

*こちらに
書いてあるSSに関して

普段感じている事
書きたいものを
原作の流れに
絡み合わせながら
自分の流れにそって
文章にしています

SSで、必然的に
性的描写、また
殺伐とした描写が
含まれているSSも
あります
その点を理解した上で
SSを見て頂くよう
お願いします。

+警告文を出している
SSを見て頂く事
に関しては
このサイトブログを
見て頂く方の良識に
お任せします。

+また、書き手の
配慮も忘れないよう
その手の類のものは
警告文付きで発表します

*また、こちらの
左側には・・・
更新記録、次回予定
SSのコンセプト
自分の語りたい事
好きなものが中心の
内容ですので
共感して頂ける方は
是非、退屈しのぎに
よろしければどうぞ。

+登録させて
頂いているリンク
サーチエンジン
同盟の方に関しては
きちんと自分のサイト
の紹介文、傾向を
明示をしてあります。

それを踏まえた上で
それでも平気だよ〜と
言う方のみ
こちらのサイトのSSを
ご覧になって下さい

なお、良識に関する
コメントの私の意見に
関しては、こちらに
載せましたので
以後、こう言った
コメントを頂いても
お返事はしませんので
あしからず。

基本的に
コメントは本当に
申し訳ないのですが
受け付けない形を
取らせて頂いています

また、こちらにあるSS

*QuinRoseより

「アラビアンズ.ロスト」
「ハートの国のアリス」
「クローバーの国のアリス」
「クリムゾン.エンパイア」

*KOEIより
「遥かなる時空の中で4」

*IDEA FACTORYより
「緋色の欠片」
「翡翠の雫」1、2、3

の版権は、全て
QuinRose、KOEI
IDEA FACTORY
既存されており
著作権は
全てこちらにあります。
ここはあくまで、非公式
ブログサイトです。

★今回の更新

真翡翠の欠片2より
先に、克彦さんと珠洲のSS、裏1本
なりましたv

克彦さんの過去をどうしても
書きたかったんですが
まだまだ、掘り下げて書きたいですー。

ペタアリ、連載ものはしばし休止中。
当分先の更新予定です。
「花とアリス」楽しみにして
下さる方、すいません
もう、しばらくお待ち下さい☆


次回の更新は・・・

本当にっ!!
エース絡みのSS裏1本

ペタアリ表裏2本SS
になりそうです。
エースとの甘めなのも入れて
書き途中です。


その他
緋色、翡翠シリーズより
祐一×珠紀SS1本

祐一、片思いもので裏
になります

真弘の事が好きな
珠紀を好きな祐一
が登場・・・(やっかい/笑)

ちょこっと
真弘も出る予定です。

忍千甘め思案中

遥か4も描きますー。
那×千、アシュ千
忍千1本の予定
(=アシュ千は確定中)

*QuinRose談義

ハートの国のアリス/PS2版

白ウサギさん
100%CG回収済み
回想は100%
白ウサギコンプ完了★

真相エンド1、2攻略
コンプ済み

*ペーター
追加イベント攻略メモ

自力で出したい方は
スルーしてください!!

<非滞在地イベントです>

ペーターの横槍まで見る
(=ここで、受け入れないと
発生しませんので注意)
       ↓
残りのターン、発生するまで
全てペーターに逢いに行く

時間が合わない場合は
砂時計を拾いに行ったりして
昼間にして逢いに行く

白ウサギ、愛です〜。
どうしても見たくて
頑張りました。
ちなみにこのイベントを
見た時、白ウサギは
すげなく女性の誘いを断る
/アリス以外
はたまた、撃ちかねない
孤高の王子様・・・
ペーターは
まごうことなく王子属性
・・・だと思いました(笑)

アリスの名前を
フルネームで呼んだ時には
もう・・・・・!!
ジョーカーが楽しみすぎる。

同時で攻略していた
エリオットにはごめんと
思いつつ・・・
(=エリオットも、もちろん
攻略しました)

+ナイトメアの追加イベント

かなりあって
すごく嬉しかったです!!
イラストが可愛いし
落ちていくさまも
星を出すさまも☆
何より、ナイトメアー。
好きなキャラなので!!

本当なら、白ウサギと
ナイトメアの図書カード
欲しいくらい。
初回版限定なので
間に合わず・・・(涙)

星はロマンチックなのに
吐血キャラ・・・
色んなものが出なくて
良かった・・・
杉田さん、好きです(笑)

★ジョーカーの国のアリス

10月31日発売決定★

ペーターの新しいイラストが・・・
アリスと花と白ウサギ・・・v
(=公式ビジュアル参照
予約を早くしたい・・・・。

>>真翡翠の欠片2買いました☆

相変わらず、昌と珠洲は
相も変わらず甘かったです(笑)
克彦さんと珠洲の関係が
気になり・・・
すごく好きになりましたvv
カズキヨネさんのイラスト、万歳!!



只今、ペルソナ(PSP版)攻略中

>>緋色の欠片TALK

全てのキャラ愛ですが
特に、祐一先輩が好き。
あぁ、でも、真弘先輩も・・・

翡翠の雫は
昌が大好きな
壬生先輩、寄りっ子です。

賀茂君も捨てがたいが
昌が大好き!!!
あの珠洲への嫉妬深さが
しかもツンデレ属性。。

真翡翠の欠片2、発売おめでとうvv

『薄桜鬼』が気になる最近。

>>ハートの国のアリス

管理人の趣向
ペタアリ属性+ボリス追加

*ぺタアリは
無性に書きたく
なる病気中なので
相変わらず。。
突発的に描くと
思います。
至上主義なので・・・(笑)

クローバーに関しては
ナイトメア、グレイ好き
クローバーでは

*グレイのみ裏あり

その為、
グレアリ、カティアイも
推奨しています。
ナイアリも追加しました

*別視点で進行中
企画を2つ

その1.
クローバーの塔の城の話
ナイ×アリと思いきや・・・
実は・・・

その2.
ペタアリだけど、ブラッドを
絡ませようか・・・
これは裏もの
ブラックうさぎ光臨で
クロアリで
お茶会イベントが
両視点で
ありましたしね

*あくまでペタアリです
何度も言いますが
ペタアリ裏になります。

もし、ブラッド目当てで
来て頂いていたら
ものすごく
ブラットファン好きの方には
非常に残念なものに
なりますので、要注意

1は進行中
2は企画中
(もちろん、・・・2は
無しも有りです)

アラロスでは
カーティスのみ
ものすごく執着するくらい
大好きです。
至上主義なので(笑)
*カティアイ裏あり

*遥かなる4の
SSの約束ですので
必ず、SS の前に
1度、軽く読んでください

管理人は
葛城忍人
至上主義人間の
那岐、大好きっ子です。
忍千、那千、贔屓

なお
遥かなるでは
4の小説
しか取り扱いません
・・・・・ので、あしからず。

*今の所
この二つのみの
カップリングしか
取り扱っていません

忍人×千尋
那岐×千尋

上の2人の
遥かなる4
未プレイ、途中な方は
閲覧時注意
裏もあり

*忍人、那岐、裏あり

近日中に
アシュヴィン×千尋
増える予定です。

*アシュ裏あり

*翡翠の欠片シリーズ

真弘×珠紀
祐一×珠紀

拓磨×珠紀

ロゴスメンバーは
SS中、登場します
アリア、フィーアなどなど。

翡翠の雫シリーズより

昌×珠洲
克彦×珠洲

*祐一、真弘
ともに裏あり

拓磨は裏はありません

2に関しても
昌、克彦ともに裏あり

この点を理解した上で
閲覧してください。

*金色のコルダに
関しては・・・
加×日、月×日
のみのお取り扱い
金色は
ただ今
ストップ中ですが
ゲームお祝い
SSを執筆予定。

*ちなみに
葵くんは原作でなく
ゲームの葵くんです。
(=断言)

+蓮君もゲームの
イメージです。

*葵くん裏の可能性高し

金色作品に
入れてくれる優しい方
本当にありがとう
ございます。
この場を借りて
お礼を申し上げます

クリムゾンエンパイアも
確実に増えると
思いますので
随時プロフに
載せていきます

もし、描いた作品の
一つでも心の中に残った
作品だったり
良かったと思える
作品だったと
判断していただけたなら
拍手をくれると
とても嬉しいです
拍手あれば
いくらでも、描きます

++未だ、「GENOウィルス」が
猛威をふるっており
閲覧者の皆様も
PCのセキュリティ対策の強化
ならびに感染前の予防対策を
よろしくお願いいたします。 

ちなみに現時点で
当ブログサイト、PCともに
感染はしていません。

(2009年10月23日付け)

>>>なお
アダルト系サイト
または
その類のものも同様
コメントならびに
削除、閲覧禁止させて
頂きます。
(=コメントがあり次第
削除します)

>>>このブログ内に
記載されている
文章、詞、写真
全てにおいて
無断転載を禁止します

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The dream that the imitation rabbit watched





誰かを好きになる行為は
とてもごく自然で 当たり前の事なのに

それはとても難しい



                        ◆


彼女の視線は 窓の外にあって
僕は部屋の一部

その存在は、偽物の鳥の羽が水で透けるように薄く
僕は彼女の部屋の付属品でしかない



              ◆act.1「雪うさぎと月」




切れ切れに聞こえる彼女の声が、僕に感情を与えた
足先は冷たい 外は雪

彼女の声に、僕は彼女の世界にいる事を理解する


「・・・寒いと思ったら、雪なのね」


彼女の言う"雪"は音もなく、周りを埋め尽くす


「・・・お前と同じ色ね」


僕と同じ白で

僕は彼女に言われるまで、自分の色に気づく事も
自分の色が何色なのかも知らなかった

僕は自分自身に興味なんて、全然なかった
知る必要も、知ったところで何が変わるかも
意味のないものだと思っていたから


僕は彼女に言われて、初めて、僕は僕の色を知る


「・・・何だか、ここはとても落ち着く」

僕は知っていた
彼女が、この部屋に来る時、零す言葉の真意を

彼女にとってこの家は、とても大きくて
ずっと背負い続けるのは、深い深い海の底を息を止めて
泳ぐようなものだと

彼女の部屋にある
ポートレートの中には、二人の少女

一人は彼女で、もう一人は彼女の姉
同じように嬉しそうに笑っているように 見えるのに

僕には、彼女が月で、姉が太陽のように見えた

同じ姉妹であるのに、輝き方は違くて、それぞれ美しいはずなのに
太陽の光は月の光と対立して
月の光の美しさごと攫って、かき消していた


「・・・きっと、お前がいるせいね、お前の白は・・・雪のよう・・・」


僕の生まれた国には"雪"はない
もしかしたら、それらしい何かが、存在するのかもしれないけれど
僕は知らない

季節と感じられる何かもない

いつも同じ

時間帯も 空の天気も 決められたサイクルで回る
軌道に乗った惑星みたいに、どこかに間違えた所へ行く事のなく
確立された約束
そこに、"不安定さ"やほんの少しの揺るぎもないはずなのに

僕は思う

どこか曖昧だ、と

いつか、その軌道を外れて、どこか違う場所に行ってしまいそうな感覚

移ろいやすい 彼女のこの世界の方が
よっぽど不安定で、隙があれば、揺らいだり、不変と言う言葉が
似つかわしくないはずなのに

なぜか、安心してしまう、自分がいる


「・・・お前は完成品じゃないね、偽物のよう、本物のように見えて
・・・偽物なんて、私みたい」


ぽつん、ぽつん

音もないのに彼女の涙が分かる
切れ切れに聞こえた彼女の声が、僕に気づかせたのだろうか


「・・・理解してもらおうなんて、無理なのかもしれないね
だって、私とお姉ちゃんは全然違うもの」


月の光が、雪の間をかき分けて、うっすら差し込む
月の光は雪を解かさない 優しい光

僕の色の白が雪とするなら、彼女は月の光


「・・・温かいね、お前、本当に、本物のうさぎのようよ」


形の見えない何かに
思い通りにならない全てに

絶望しても


"・・・えぇ、アリス、僕は偽物ですよ、だけど、アリス
僕は貴方が好きですよ"


「・・・え?」


"貴方は僕を温める、だって貴方の熱は優しいから"


「・・・白うさぎ・・・?」


"貴方が僕の良さを初めから知っていたように
対立しているものに貴方の良さなんて分かるはずがない
理解なんてされなくても良い、貴方の良さは僕が知ってるから"


聞こえる

ぽつん、ぽつん

彼女の声が
彼女の心の音が


突然分かったって、全部分かった、ってそんな気にさせられて
でも、それが気だけだったなんて
期待を裏切られるようなこと

その一瞬後には、元の混沌へと引き戻される
そんな悲しい事

君が好きだと耳元で囁かれて
本当は、それが全部 嘘で
私とは違う誰かが目的だなんて

自分は、その人と関わる為の通過点で、その人と
知り合いになれたら、もう、自分はいらなかったなんて、そんな事


月の光が太陽の光に隠される
切れ切れに聞こえた、彼女の哀しい声


「・・・姉さん、もう、平気よ、全然、気にしてないもの」
「・・・どうして、突然、あんな事を言い出すのか、私にも分からなくて」
「・・・そうね、家庭教師だったはずなのにね」
「・・・それに、あの人は、アリスを好きだったはずでしょう?」
「・・・きっと姉さんの、優しさと、明るさ、美しさに・・・惹かれたんだわ」
「・・・優しいなんて、私にはそんなもの」
「・・・まるで、私には、太陽の光のように感じるわ」
「・・・そう言う貴方にだって、優しさはあるわ、私は知ってるもの」
「・・・どんな?」


"もし、本当の優しさを知っていたら、アリスを悲しませるようなことを
平気でしたりしませんよ"


「・・・ねぇ、うさぎさん、私は優しいかしら?」


"・・・えぇ、もちろん、こんな僕にも、その優しさを分けてくれる"


「・・・貴方が本物だったら、ずっと一緒にいられるのにね」


ぽつん、ぽつんと、彼女の涙
僕は、優しい彼女に抱かれて眠る
身動きがとれなくて、僕はとても苦しいはずなのに


なぜか、僕はとてもそれを"幸せ"だと、感じた


温かい僕の身体は、冷たくなった彼女の身体を温める

そして、彼女の心も温める

もし、僕が本物だったら、もっと
彼女を温められる事が出来るのだろうか?


それは、一夜の夢
僕の小さな世界の中での、話に過ぎない

夢から覚めたら、僕は彼女から手を離し
彼女見えない所まで、飛んで、もう二度と会えない

彼女が、僕の見えない所で、泣いていたとしても

そして、この僕の体からも 引かない
彼女の熱が

ずっと ずっと 引かない




           ◆act.2「熱とバイアス」





「・・・バイアス」


何もない世界、暗闇の中で、確かにその声は聞こえた


「・・・バイアス、ね」
「・・・そうさ、これは君のバイアスだろう?」


バイアス
それは、思考のゆがみと偏り

思考にバイアスがかかると
人は、物事を正確に 判断する事が出来なくなる

何かを確信した時、周囲の情報の中から、自分の確信に合致する
ものだけを集めようする
それを否定とする証拠の収集は、避けようとし、そこでゆがみが生まれる


そして、僕は判断を下す


「・・・君は本当にそれを、正しいと思うのかい?」
「・・・当然でしょう」
「・・・もし、彼女をこの世界に連れてくる事で、本当の決別を
君が知る事になっても?」
「・・・えぇ、良いんですよ、ナイトメア、彼女が・・・幸せであるなら」


決別なんて、僕にとっては手慣れたものだ
決別、その意味さえ知らないのだから

僕は、生まれ落ちた時から、望みも何もなく
成長する過程でも、それを知る術がなかった
本に書いてあった事だけが真実で、本来与えられるべき
温もりを与えられる事は、なかった

いつでも、記憶に残ることのない
薄い薄い、存在

誰かを蔑んでも、自分の踏み台に使っても
心は、決して痛むことなく、誰からも非難されることもなく
否定も肯定もされる事は、なかったのだから

幸せなんて知らない


だから、僕は平気なはずなんだ


けれど

「・・・・・・・・・」


彼女の事を考えると、心が痛んで、
見えない部分から、血が流れているようで
そして、彼女に抱きしめられて眠った夜の熱が
まだ、この身体には残っていて、恋しくてしかたなかった


"・・・貴方が本物だったら、ずっと一緒にいられるのにね"


彼女の声を思い出すたびに、何かが揺れ動く


僕は、ナイトメアの言う通り、バイアス、なのかもしれない



「ぺーター・・・?」
「・・・あ、アリス、もう、とっくに部屋で眠っているのかと」
「・・・今日は、部屋に来ないのね」
「・・・え?」
「・・・あ、えーと・・・いつも、いつも私の部屋に、許可もなく来るくせに
今日は来ないから、風邪でも引いたのかと思ったのよ」
「・・・いいえ、健康です」
「・・・そ、そう、それなら、良いんだけど・・・」


開けっぱなしの窓から、心地よい風が部屋が通る
今日の時間帯は夜

薄暗い世界では、身動きさえとれない


「・・・寒いの?」
「・・・え?」
「・・・震えているから」


心地よいはずの風が冷たいわけがないのに、と思いながら
僕は彼女に視線を移す

月の光が、彼女の照らしだしていた
優しく笑った彼女の顔が、少し困ったような顔に見える


「・・・震えて、なんていませんよ」


決別の意味なんて、僕にとっては手慣れたものだったはずで
夢から覚める時、僕はずっと掴んでいた彼女の手を離して
彼女の見えなくなる所まで、飛んで

もう二度と会えないと悟った

だけど、それが僕の"バイアス"だったなんて


過ぎていく一瞬、それぞれ、その瞬間に関わる誰か
時間帯が流れていくように、僕は出会いと別れを繰り返す

決別は、時間帯の中で、行為に過ぎず
その人と二度と会えなくなっても
僕にとっては、義務的ものに過ぎなくて、そこに感情も感覚も
持ち合わせていなかった


だけど


"・・・そうさ、これは、君のバイアスだろう?"


彼女に会いたいから、僕の世界に連れて来た
だけど、彼女がこの世界にいる事を望まなければ
彼女はこの世界から、消えてしまうだろう

初めから、この世界にいた記憶ごと忘れて

君の存在ごと、彼女は忘れて

君なんて存在、初めから知らなかったというように


「・・・寒いなら、抱きしめてあげる」
「・・・え?」
「・・・誤解しないでね、温まる間だけよ」
「・・・貴方の優しさは、初めて会った時から知っていましたよ」
「・・・どこかで聞いた覚えがあるけど・・・思い出せないわ」
「・・・良いんです、思い出さなくても、今だけが本物ですから」
「・・・本物?」
「・・・そうです、僕は本物ですよ」
「・・・そうしたら、きっと私の気が変わらない間は、一緒にいられるわね」


"・・・貴方が本物だったら、ずっと一緒にいられるのにね"


「・・・えぇ、僕は貴方とずっと一緒ですよ」


彼女の温かい身体を強く抱きしめる
髪に触れ、耳たぶの熱を感じて
赤くなった頬を指でなぞって、閉じた瞳の上にキスを落とす


「・・・ペーター・・・」


離れた時に生まれた僕のバイアス

彼女の不在が生み出す、空白の白は
決して、埋まりそうになかった 埋めるつもりもなかった

彼女がいないと、この空白は埋まらない
彼女がいないと、この世界は成立しない

移ろいやすい この世界に 僕の欲しかった
熱と彼女がいる


あの時と同じ
彼女は、僕を強く掻き抱いているのに

僕は彼女の部屋の一部で

偽物の鳥の羽が水で透けるように薄く
僕は彼女の部屋の付属品でしかなくても


「・・・アリス、温かいですよ・・・」
「・・・ん・・・・」

彼女の視線の先には、僕がいる


かけていた、銀縁の眼鏡が落ちて、そのまま、ベットに崩れ落ちる
アリスと二人

もつれ合って、絡み合って

閉じかけた瞳を開いたら、お互いの顔が近づいた


僕と同じ色の白いシーツが、風に微かに揺れる
指先が絡んで、温かさとは違う熱を感じた


あの時、身動きがとれないほど、抱きしめられた時の熱よりも、熱い


「・・・好きよ」
「・・・アリス・・・」


足先まで熱い 外には星

この世界には、季節を感じるものはなくても
夜を告げる星は、空にあった


僕は、彼女の付属品でありながら、彼女を独占できる


「・・・いつの間に・・・私・・・」
「・・・何です?」
「・・・あ、えと・・・何でもない・・・ん・・・あ・・・っ」
「・・・アリス」
「・・・ん・・・っ・・・何?」


夜の闇は、体温となり、言葉は夜の断片へと姿を変える
声は欲望に遮られ、途切れる
視界はつかのまに真っ白い、雪のように変わり

誰も穢す事の出来ない、静寂の傍らに
二人の気配だけがあった


一度見送ったはずの時間が再び、自分の方へとやって来る
近づいてくるのを感じながら、どんな言葉で、彼女を迎えようか
考えていた


それは、夢か、幻か


だけど今、彼女に触れる身体は、現実で
僕がこれから生み出す実体は、簡単には死なない



「・・・好きですよ」



誰かを好きになる行為は
とてもごく自然で 当たり前の事なのに

それはとても難しい







テーマ : ゲ−ムの小説・語り - ジャンル : 小説・文学

夜に落ちる君と 昼間に眠る僕*




*マークはR指定作品ですので、
18歳以下のお客様はSSの閲覧は、ご遠慮ください。






                    

君を知るや 赤い瞳
君を知るは 冷たき指

目を閉じれば、繰り返し消える
彼の幻影




         ◆act3.「Midnight Teater」





「・・・ここはどこ?」


目が覚めると、そこには見覚えのある景色が広がる
確か、ここは


「・・・僕の家ですよ」
「・・・カーティス・・・どうして?」
「・・・どうして・・・とは?先に聞いたのは、プリンセスの方だったのに」



"部屋には戻れないでしょうね"


うっすらした、過去の記憶の断片で、彼の声を聞いた


「・・・僕が貴方をここにお連れしたんです」


ニッコリ笑う彼に、罪悪感の欠片も見えない


「・・・でも、私・・・確か・・・」


右、左と首を振って、記憶の曖昧さを取り戻そうとする
視線の先には鎖で繋がれた足先


「・・・こ、これ・・・」
「・・・そうですね、貴方は、初恋の相手と一緒にいたはずだった」

初恋の相手と言われて、思考を過去に戻す
そう、あの時は部屋に戻る途中で

急にカーティスが現れて

まるで、起きているのに夢を見ているような
白昼夢のようで


「・・・初恋の相手って・・・もうとっくに過去の話で・・・・それに
あの時は別れた直後だし・・・ってスチュアートの名前、知っているでしょ」

「・・・あぁ、そんな名前でしたね」

「・・・そんな名前って・・・だったら」

「・・・でも今は、その名前は、出来るだけ使いたくないんです」

「・・・どうして?」

「・・・名前を呼んだら、プリンセスは、僕の知らない
過去へ飛んでしまうでしょう?少なくても、今の貴方は僕のものだ」


知らない過去
スチュアートとの過去だろうか

幼い時の日々
そして、遠い初恋を


「・・・それは・・・」
「・・・僕のものではないと・・・?」
「・・・私は誰のものでもないわ」
「・・・そうでしょうか?」
「・・・そうよ」
「・・・なら、どうして、明日の同行の誘いを断らなかったんです?」
「・・・誘い?」

別れる前に言われたスチュアートの言葉


"・・・明日、付き合ってやる"
"・・・何、進歩したの?"
"・・・お前よりは、な"
"・・・気持ちだけは、受け取っておく"


「・・・あれは・・・断ったつもりで・・・」
「・・・きっと彼は、誤解したでしょうね」


長い事、一緒にいなかった二人が再会する
それは、偶然でしかないが、本に書かれた物語では
序曲になり、出会った事は、必然となる

気持ちが繋がっていると確信した彼は
繰り返し、彼女に愛をささやく

繰り返し 繰り返し

「・・・飛躍しすぎよ」
「・・・例え、それが飛躍だとしても・・・プリンセスと彼が
幼馴染でいる事は変わりない、そして同じ過去がある」
「・・・どうして、今日は僕の所に来なかったんです?」
「・・・読みたい本があって」
「・・・へぇ、どんな?」

彼女が昼の世界にいる頃
僕は、眠りの中にいた


酷く、色褪せる夢
落ち着かない、バランスがとれないような気持ちで



"今日は、彼女の声が聞こえない"



そう、ずっと思っていた



「・・・目的の本は見つからなかったの・・・」
「・・・答えになっていませんね」
「・・・だって本当に」
「・・・スチュアート=シンクと一緒にいたかったから?」
「・・・え?」
「・・・一緒にいたかったから、断らなかった」
「・・・思い出したくないって、今・・・それに・・・名前」
「・・・時には、矛盾も良いと思いまして」
「・・・都合のいい話ね」
「・・・断らなかったのは?」
「・・・深い意味なんてない・・・」
「・・・深い、意味ね・・・」
「・・・それにカーティスとも、約束してなかったでしょ、スチュアートも
同じ理由で・・・」
「・・・僕と彼を同じだと言いたいんですか?」
「・・・そ、そう・・・よ」
「・・・約束、ね、そうですね、僕たちは約束してなければ会えない」
「・・・そう、でしょ・・・」


口実が必要になった
約束をしていなければ、僕は彼女と会えない

夢の世界の中でも
そして、現実でも

だから、ずっと思っていた


"今日は、彼女の声が聞こえない"


その約束は、目覚めの悪い夢の"跡"

変な気分になった時と同じで
会えない時に、声が聞こえないと
気付いた時と 同じ焦燥感に似ていた

本当なら 別に大したことはなかった
なかったはずだった
自分にとって、会えなくなる誰かがいたとしても
それが、自分の心を 酷く焦らせるものではなかったから

声の相手の幻影を 追いかけるほど
執着することもなかったのだから

助けたはずの部下を 殺した夜
僕は欠陥品となり、宵闇の夜色にその身を変えた
光を求める事のない暗き闇色
他の色が重なりあって、自分に覆いかぶさってきたとしても
打ち消してしまうほどの暗き闇

けれど、なぜか、彼女に会った晩は
その闇色が透けて、彼女の深い深い瞳と同じ深い青色に
飲み込まれてしまうような気がした

そして、僕はそれに いつの間にか気づいていた

だけど、知らないふりをした
知らないふりをした方が
その方が何倍も楽だったから

決して交わる事のない平行線上の長い道のりの先に
彼女がいて、いつでも僕の名前を呼んでいた
彼女以外に他の誰でもなかった

酷く心が焦るのは、彼女に嫌われたくないと思ったから

口先で好きと言うなら、簡単にできる
だけど、違う
そんな簡単に言える好きとは違う

ひと思いに壊してしまえるような好きではなくて


「・・・カーティス?」


僕の事を 好きになる以前に、彼女に嫌われたくないと思う
自分が想像していた以上に大きくなって
そして、彼女を誰にも取られたくない思う自分が
気がつかない間に、心を乗っ取っていたとしか思えない


「・・・約束していなくても、会えるのは、スチュアート=シンク
と貴方が惹かれあっているから?」

「・・・え?」

「・・・それとも、貴方にまだ未練があって会いたいと望むから?」


ギシッと音を立てて、ベットが軋む
足先に繋がれたアイリーンの鎖が静かに揺れた
高い金属音が部屋に響いた

シャラン!

伸びるカーティスの手が彼女の腕を掴んだ


「・・・や・・・っ・・・やだ・・・」


逃げようとする顔を カーティスは、指先で捕らえる


「・・・約束をしてないと会えないと言うのが本当なら、貴方が
スチュアート=シンクに逢ったのは、僕と同じ理由では
ないですよね?」

「・・・知らな・・・」

「・・・逃げないで下さいよ、プリンセス、僕も
貴方に酷い事をしたくないんです」

「・・・ん・・・やだ・・・」

「・・・僕から、逃げようとでも・・・?」

「・・・逃げようなんて」

「・・・なら、僕のものになるとでも?」


強い声が肩を押す
声に押されて、彼女の身体が深く深くベッドに沈む


「・・・カーティス・・・私が好きなのは・・・」
「・・・聞きたくありませんよ、真実なんて」


いつでも壊すのは、僕の方であったのに
彼女は僕の何かを壊そうとする

形のない 実体になる前のもの

何も望む事も 何も必要でない僕に
声の相手の幻影を追いかけさせるほど

彼女は僕に"執着"する事を覚えさせた


「・・・アイリーン」


少し低い声が、心ごと持って行こうとする


「・・・やぁ・・・っ・・・」


覆いかぶさって来る
彼の身体を手のひらで、力一杯押しやろうとする


「・・・無駄な事を」


けれど、彼の方が断然、力は強くて、押し倒される
この細い腕のどこに力があると言うのか


「・・・ん・・・っ・・・あ・・・っ」


バタつかせた足先から、高い金属音が、際限なく聞こえる
シーツに埋もれていく身体は、まるで深海に潜っていくような感覚

長い綺麗な藍色の髪が、宙を切ったかと思うと
次の瞬間には、シーツの上に
まるで、白いキャンパスに藍色の絵具を
零してしまったかのように広がった

画面いっぱいにした その上に闇色をまとった
緋色にも似た、赤が重なる


「・・・やぁ・・・・ん・・・」
「・・・苦しいですか?」


息が出来ないほどの、目まぐるしさに呼吸を忘れそうになる
ここは、本当に海の中のよう


日差しも光も差さない 深海


「・・・ん・・・」


余裕すら、感じさせない 酷く焦る心
何かを怖がっているのに、それを見せない

けれど、彼女の青い瞳は、知っている
彼の瞳が、焦点を一定にせず、不安定に揺れるのを
一番近くで見ていたから


「・・・アイリーン、貴方を目の前にすると」


少し余裕のない彼の顔が見え隠れして
深い闇が儚い時を告げる

息継ぎの間を持たずに繰り返される、彼のキスは
息苦しさと、ほのかに触れる肌の熱と


そして


「・・・僕も苦しいですよ」



同じ速度で傷む 自分自身の心を、彼女の傍に置いた



        
                        ◆



夢と現の間
たゆたう 眠りの中

浅い浅い遠浅の先に
ゆっくり死んで 急速に腐る



    
                         ◆



引き込んだ赤は、その青を取り込んだ
拘束される指先は熱いのに 足先は冷たい





                          ◆




「・・・んん・・・・あ・・・っ」


顔を左右にして、視線を合わないようにしても、振り向かされる

滑るように流れていく指先は
まるでロードムービーのようで
終わりのない映画を 見ているようだった

肌の上で何かが始まる、そんな気もした

離れた口先から、ようやく彼の声が聞こえて、意識を取り戻す


「・・・感じます?」


余裕がなかったはずの彼の顔に、不敵な笑顔が
上書きされたかのようで
もう、ここから、逃げられない事を知った

それでも

「・・・どうして・・・カーティス・・・私になんて興味も何もないって・・・」
「・・・そうですね、でも、僕は、気まぐれなので」
「・・・気まぐれ・・・って・・・私はプリンセスなのよ?普通になりたいと
思ってるけど・・・カーティスが一番嫌いなものを・・・たくさん持ってて・・・」
「・・・別に関係ありませんよ、後継者とか、王族間の問題とか
僕にとっては、全く無意味なものだ」
「・・・無意味・・・なものなら・・・」
「・・・みんな殺してしまえばいい、邪魔なものなら」

抵抗してみる

「・・・殺すって、そんなの」
「・・・僕はプリンセスにしか興味がないので、あとはいりません」
「・・・どうして、そんなに私にこだわるの?」
「・・・プリンセスが僕を連れ出した、そして、僕を呼んだ・・・
僕の何かまで、壊そうとする」

確かに彼を呼んだ 同行者として
初めは、彼とはそういう関係だった

それは、彼も承知の上の事で、私も彼も理解したものだと
思っていた

でも、私は

「・・・前にも言ったでしょう?貴方は面白い人だと、僕にとっての
面白いは、最高の賛辞なんですよ」



"・・・面白い"


"面白い?私は・・・全然面白くないわ・・・"


"・・・貴方と一緒にいると、全然、飽きない"


"・・・え?"


"いつでも、貴方は僕の予想を軽々と越える"




「・・・そんなの・・・」

「・・・やめてって言っても、やめませんよ?僕は一度狙った標的は
外さない主義・・・それが盲目のセオリーなので」

「・・・ぅん・・・っ」


舌先が再び、口先に入り込んで
肌の上を滑った指先が、大きな彼女の胸を揉みし抱く


「・・・あ・・・っ」
「・・・可愛いですね」
「・・・ひぁ・・・っ」

空気にさらされた胸の突起がツンと立って
それを見たカーティスが笑う

「・・・感じているんですね」
「・・・感じてなんて・・・な・・・」

キスを繰り返していた口先を、胸元に寄せる
胸元に寄せられた彼の口先が、羞恥心をあおるように
わざと音を立てて含んだ

「・・・んん・・・ああ・・・っ・・・あ」
「・・・嘘をつくのが下手ですね、プリンセス」
「・・・や、やだ・・・っ・・カーティス・・・っ」
「・・・もっとかわいくおねだりしたら、貴方のお願いを聞いて
あげなくもないですよ?」
「・・・やぁあっ・・」

胸元に彼の顔が埋もれる
腕で何度も、はねのけようとして、その腕を押さえこまれた
首先に、赤い彼の髪が、触れて、視線の先を何度も行き来する
その間も容赦なく彼の舌は肌をまさぐり、体中の体温が上がる
熱を帯びた身体が水分を欲しがっている

彼の指先が、足元に落ちた


「・・・駄目・・・それ以上は・・・」
「・・・それ以上は・・・なんです?」

太ももを優しく撫でたかと思うと、少し膝を立てた
彼女の足先から、指先が侵入する


「・・・だ・・・だめ・・・や・・・っ」
「・・・止めてって言われると、もっとやってみたくなります」

スカートが流れて、彼の指が隠された何かを
探すように、中で動く

彼女からあふれ出たものが、彼の指にまとわりつく
ツンとしたにおいが鼻を突く
まとわりつくものを、彼は彼女の口先に持ってくと
口先に含ませた

「・・・んん・・・」
「・・・貴方の味ですよ?」
「・・・ん・・・や・・・」

口先に、何とも言えない味が広がる

「・・・ふ」

塩水にも、似たしょっぱい味

「・・・カーティス・・・っ」
「・・・まだ何もしていませんよ?」

そう言いながら、彼の指はさらに奥へと入り込む
1本だった指は、いつの間にか2本に増やされていて、入り込む
指先から、水音にも似た音が、聞こえ始める


「・・・いや・・・っ・・・あ・・・っ・・・」
「・・・嫌じゃないでしょう?」


とろとろした中がより一層、滑りを良くして、指を飲み込む
彼女の体は、更に熱い


「・・・ひぁ・・・っ」
「・・・こんなになって」


指先に合わせるかのように、彼女の腰が揺れて
その度に繋がれた鎖の音が響く

かき乱しては、反応を見て
キスを繰り返しては、彼女を強く抱き

力がなくなった彼女の細い体は、まるで繊細で
脆い、今にも壊れてしまいそうなガラスのようで

「・・・もう限界ですか?」
「・・・あん・・・」

声には出さないが、彼女が首を振るのを見て

「・・・まだ、欲しいと?」
「・・・ちが・・・っ」
「・・・誰のものでもない、誰のものにもならない」
「・・・んん・・・」
「・・・僕だけのプリンセス」
「・・・大丈夫、もう終わりにしてあげますよ」

彼女の手を取ると、力強く引く
力ない膝をたやすくこじ開けて、彼女をさらに深くシーツに沈める

足先が視線の先を横切って
手のひらで熱が溶ける雪のような 儚い一瞬
彼はそのまま、一気に彼女の中に深く侵入する

彼の赤が、彼女の青に取り込まれていくような

「・・・カーティス・・・っ」
「・・・もっと崩れ落ちてしまえばいい」

細い身体は、どこまでも怯まずについてきて
腰を揺らすたびに彼女の声が上がる

「・・・あぁん・・・」
「・・・まだ、駄目ですよ」
「やぁ・・・っは・・・ん」
「僕を満たしてくれるまで」

底の見えない硝子のコップみたいに
いくら水を注いでも

注いだ先から、乾いてしまう


「・・・あぁっ・・・ん・・・終わりなんてあるの?」

大きく胸が揺れて、切なげな彼女の声が聞こえる

「・・・さぁ?どうでしょう?」


正体不明の違和感


それは、ずっとあった 彼女に出会った、その時から

もう一度会いたいとさえ思った


名残惜しい 一瞬の逡巡



一瞬でしかなかったのに、なぜか惹かれて
忘れられなかった
離れなかった


気になった時には、もう



夜の闇に紛れて、昼の月を思った

眠る世界にしか彼女がいないなら
彼女ごと、僕の傍に置いてしまえばいい


光と闇
相反するものが、出会うのが夜だと言うなら

彼女を
夜の世界に連れ出してしまえばいいと


夜の住人でありながら
僕は手に入れられないはずのものを望んだ


"今日は、彼女の声が聞きたい"

それだけを ずっと思って



昼と夜
同じ空であるのに
二つの距離は遠い


まるで、同じ世界にいる僕と彼女のようだ


昼の世界に住む彼女と
夜の世界に生きる僕

僕と彼女の距離は遠い


"・・・アリク、推理ゲームをしようか?"
"・・・カーティス様?"
"・・・君がこれから、僕に伝える言葉と・・・僕がこれから伝える言葉"
"・・・カーティス様、私は、頭はあまりよく・・・"
"・・・何、簡単な事ですよ"
"・・・君は昼間に仕事をすればいい"
"仕事?夜ではなく?"
"・・・そう、王宮で"


焼きたてのお菓子を届けさせる、差し入れだと言って
一つだけ、眠り薬を入れた薬を

目立つように一つだけ、違うお菓子にする

彼女にふさわしい、高貴なお菓子
焼き菓子のマカロンなんかが、彼女にふさわしい


"物語は、いつでも昼間に始まるけれど、これは夜に始まる現実
たまにはこういう物語があっても面白いだろう?"



「・・・ずっと僕だけのものにしたいと思っていたんですよ、プリンセス」
「・・・んん・・・っ」
「・・・もうすぐ、物語の終わり、終わりは必ず、ハッピーエンドでないと
いけないんですよ?」
「・・・やぁぁ・・・っ」
「・・・物語の相手が幸せでないと、読んでいる方も満足しないでしょう?」



"物語が必ず幸せじゃなきゃいけないなんて、誰が決めた?"



普通とは対極である彼女が欲しい


「・・・欲しいものはいつだって、昼間にしかない」



"誰も決めてはいませんが・・・ないものねだりみたいですね"

"アリク、お前は本当に頭が良い"


答えは知っていた
物足りなさの原因も 酷く心を焦られる何かも

そう僕は いつもないものねだりばかりだ


「・・・僕は・・・貴方が・・・が好きなんです」


優しく髪を掬えば、綺麗な藍色
そして

遠くて近い青

彼女の青い瞳が僕を映す

何かを伝えようとして、戸惑う彼女の顔
口を開けば、よく聞き慣れた声


「・・・私も・・・」
「・・・え?」
「・・・んっ・・・私も・・・知っているの」


ずっと聞こえなかった声が、降り落ちてくる
知っていて 遠かった声


彼女は その声の主を知っている


「・・・だって・・・私・・・私はその為に」


彼女は昼間が長いと言う事は、知っていた
それは、彼女の住む世界が
全て覆い尽くす夜の世界ではなく
光に満ちあふれた 全てを照らす昼の世界の住人だから

手を伸ばして、彼に触れた時
彼の夜の世界を かいま見る

決して、夜の世界には いないのに
血の香りと共に、覗き見たのは夜の"儚さ"
一瞬の逡巡

夜の儚さを知った時、自分が昼の世界の住人である事を知った


「・・・その為に・・・なんです?」
「・・・夜に落ちたの」
「・・・アイリーン?」
「・・・好きよ」


足先に繋がれた鎖の音が、左右に触れる
高い金属音が辺りに散らばった

その言葉を他の誰にも聞かせないように
唇をキスでふさいで、侵入した身体を彼女の中に打ち付ける

まるで、楔のように強く
他の誰のものにもならないように、深く


「・・・ふ・・・っ・・・んん・・・っ」


口先から、零れおちそうになる彼女の言葉を
全部掬いあげたかと思った瞬間、全てがあふれ出して
軽くなった彼女を抱えたまま、腰を捕まえる

シーツに沈んだ彼女の髪先が宙を舞う


「・・・あぁん・・・・っ」


彼女は小刻みに揺らした身体を大きくのけぞって
僕から、あふれた白く白濁としたもののと一緒に、外に放たれる


シーツに倒れ込む一瞬

欲望は奈落に落ちて、昼を夜に変えた

取りこんだ青は、赤と深く混ざり合って、夜色の紫へと変わる




          ◆act3.「Midnight Teater/ねつ造された物語」




ぼんやりした頭で、夢から現実に戻る
目の前にあるのは、積み重なる書物の山

ここはどこだろう?
ライルの書庫?

それとも


「・・・定番は、そう、必ず攫われてしまいます」
「・・・?」
「・・・綺麗なお姫様は悪者に攫われて・・・」


ここは


「・・・二度と戻れない」

「・・・カーティス、それ定番じゃないわよ」

「・・・お目覚めですか?」

「・・・勝手に話をねつ造して・・・あんたは・・・」

「・・・ねつ造なんて酷いな、プリンセスと同じものですよ」

「・・・私が読んだのは、少なくても、王子様が助けに来る展開
だったと思うけど」

「・・・そうですか?残念」


足先に付けられた鎖は、変わらず付けられたままで
窓の外だけが、時間帯が変わった事を告げる


「・・・僕、眠る時間ですなんですよね」
「・・・そう」
「・・・貴方も一緒に眠りましょうか?」
「・・・その前に鎖を外して」
「・・・さっきの僕の好き、って言葉聞いてました?」
「・・・聞いてたわ」
「・・・貴方も夜に落ちたんでしょう?」


もう、答えはお互いに知っている

お互いに出会った あの時から
昼の月を見ながら、夜の星を思い
夜の月を見ながら、昼の月の事を考えていた、その時から


「・・・約束しなくても会えるわ」


遠い過去から、近い現実になった今を


「・・・一生、貴方が離れないようにしてあげますよ」


微かに揺れた鎖が、この場所に繋がれた事を予感させた



正体不明の違和感
名残惜しい 一瞬の逡巡

戸惑いの殻が壊れても 
この胸に 焼きつく想いが 君に届くなら





夜に落ちる君と 昼間に眠る僕







正体不明の違和感
名残惜しい 一瞬の逡巡

戸惑いの殻が壊れても 
この胸に 焼きつく想いが 彼女に届くなら



            ◆act.1「装飾譜のいらない唄」



音もなく消えた人影 残り香の残る街角
影すら下に引く、暗き夜は 今日も彼を その闇の中に覆い隠す

無駄のない動きに 巧みなセンス
圧倒的な情報量に

許容量を 軽々と越えていく才能は
いつだって彼に過不足や不利益を与える事をしなかった

鮮血の赤は、指で掬うと滴るように
地上に落ちて、儚く消える

そして

その赤は、闇に対比するほどの鮮明さで
いつでも、彼の一瞬を華やかなものにした

そつなくこなせば、そこに何の疑念も不自然さも
生み出さないはずなのに

いつからか彼に、物足りなさを感じさせていた

酷く心をかき乱させるような
酷く心を焦らせるような

彼はその答えを知っている




        ◆act.2.「夜の使者 昼の人」




君を知るや 赤い瞳
君を知るは 冷たき指

目を閉じれば、繰り返し消える
彼の幻影



                       ◆




ぼんやりした頭で、夢から現実に戻る
目の前にあるのは、積み重なる書物の山

どこにこんな本が
眠っていたのかと思うほどの、蔵書の数だ


ここは、家庭教師、ライル=スルーマンの書庫


「・・・・・」

一瞬、言葉を見失いかけて、一つため息をつく
いつ見ても、ここは、ため息しか出てこない

これだけの本を見上げるのは、初めてじゃない

幼い頃、勉強が嫌いで、ライルの手から逃げ出した時
よくこの書庫に隠れて、暇つぶしがてらに
ライルの本を読みあさっていたから
別段、驚きはない

・・・けれど、ほとほと、ため息は出る


「・・・また、増えてる・・・」


蔵書、本の数が多いのは、ライルがもともと
読書家と言うのも関係するかもしれないけれど
ジャンルに富んでいるのは
ライルのせいだけじゃないと、アイリーンは思う

「・・・これは、きっとロベルトのよね」

手にしたのは、定番の恋愛小説
装丁は女性向けに美しい

手に届く位置に本があったので、踏み台は必要なく
触れた瞬間、すぐに手元に降り落ちてくる


"・・・プリンセス、一度は読んでみて下さいよ"


たまに来る ロベルトは、置き土産のように
毎回、本を置いて帰る

この前、書庫を掃除していたライルが
あまりのロベルトの私物の本の多さに

このまま、捨ててしまおうか、と

うすら寒い笑顔で、言っていた事を思い出して
思わず、思い出し笑いをしてしまった


「・・・捨てられる前に、読んでみようかな」


面白半分で、表紙に手をかけて、ページをめくる
中身は、定番中の定番


「・・・必ず、プリンセスは、悪い奴に攫われてしまうのよね」

ページをめくると現われる主人公とプリンセス

綺麗な綺麗なお姫様と主人公は、偶然に出会い恋に落ちる
しかし、それを妬んだ、悪い奴に攫われる
そして、実は主人公は、どこかの国の王子さまで
白馬と剣を与えられて、プリンセスと助けに行く

幼いころに読み更けって、手にしていた、夢中になっていた間は
そんなありえもしない展開に憧れもしたけれど

今は


パタン!

本を閉じて、視線を落とす
懐かしい気持ちもここまで、と言うように瞳を閉じる


「・・・夢物語よね」


夢中になっていた物語も
いつの間にか過去の記憶の隅に住むようなって
誰も皆、同じ所にいなくて、それぞれが違う場所へと
空を飛ぶ鳥のように、飛んで行く

自分だけが立ち止まっていたのかな

と考えていたら
自分の手に残るものが少なくて、驚いてしまった
いつの間にか、時が経って、憧れも夢も手放してしまっていた

大人になっていくと、手に入るものもたくさんあるけれど
失くしたものも、落として気づかないままのもたくさんあった

自分が一国を背負うプリンセスと言うのもあるのかも知れないけれど
それだけのせいにして
本当は、どこかで、現実に気づいてしまった気持ちを
忘れようとしていたのかも知れない


「・・・よ、っと・・・」


本を棚に戻して、書庫を後にする


「・・・プリンセス、部屋にお菓子が届いていましたよ」


廊下をすれ違いざまに
王宮のメイドの一人に声をかけられて


"差しいれ"という単語が浮かんだ


そう言えば、タイロンが、今度、お嬢においしいお菓子を持って行く
と言っていたけれど、そのお菓子だろうか?

焼き菓子のようで少し違う
マカロンのような

あれだけ、部屋を出る前に、今日は部屋には夜になるまで
戻らないと伝えてあったはずなのに
タイロンは人の話を聞いているようで
聞いていない所がある


結局、読みたい本を探しに来たはずなのに
すっかり目的を果たせないまま
あてどなく、明かりの頼りない廊下を一人で歩く

月明かりが優しい 星のない夜


本を見つけられない、この夜は
長いようで、短い時間

朝が来て、昼間が来る・・・それまではとても長いと感じるのに
夜はほんの一瞬で

ふと、彼女は思う


"・・・この夜が終わるまでに何か終わらせるのは、大変だわ"


彼女が昼間を長いと思うのは、彼女の住む世界が
全て覆い尽くす夜の世界ではなく
光に満ちあふれた 全てを照らす昼の世界の住人だからで
彼女は、その真実を知らない

本当は、朝が来るまでに一冊、本を読もうと決めていたのに
何だか調子が狂う


「・・・アイリーン」

その時、背後から声がかかる
彼女は、その声に思わず、振り向く



彼女は その声の主を知っている




  ◆act.2.5「夜の使者 昼の人/彼女の声、遠い初恋」




"今日は、彼女の声が聞こえない"


なぜか、その事を思う時
彼は心が酷く焦って、落ち着かなかった

まるで、自分の中の全ての色が溶けだして
周りと同化してしまいそうな
色褪せて、そのまま 自分自身が消えてしまいそうな

色を取り戻そうとして、立ち上がる

一瞬、身体のバランスを崩して、横に崩れる
立ち直層として、足を付くと、足を付いた場所が浮かび上がり
画面が揺らいで、後ろに倒れた

声を上げそうになって、目をあける
見慣れた天井と部屋の景色

「・・・・・」

夢を見ていたのだろうか?
・・・何て目覚めの悪い夢だ

横を向けば、照りつける、昼間の太陽の光が
部屋の隙間から入り込んで、部屋の気温を上げている

あんなに夜は過ごしやすかったのに
仕事を終えてから、疲れの残る身体

昼間になんて、起きる癖なんて付いていなかったのに
まだ何時間も経っていないのに
眠りから覚めてしまった

「・・・・・・・」

夢の内容を起きてすぐ、大分忘れてしまった
夢で、僕は何を思ったのだろう?


汗ばんだ前髪を横に流して、指先で風を起こす
空を切る指先の音が、やけに耳に残った

・・・変な気分だ

彼は思った

今までこんな気分で目覚めた事も、こんな気分になった事も
一度もなかったはずなのに


「・・・この汗は・・・」


例えば、彼が仕事で標的を射止める時も
その背後に 何かしらの慈愛を感じ取ったとしても
標的を心配する第3者の介入の繋がりを知ったとしても


彼にとっては、そのもの自体が
恐ろしく"クダラナイもの"に過ぎない
だから、心を揺さぶられる理由にはならない

何も感じないからこそ、彼は淡々と仕事がこなせる

他のものたちが、欲しくても
決して手に入れられないほどの高いスキルと
高度な能力を手に入れることが出来る

何も感じないからこそ

彼は誰かに必要とされることを知らない
だから、彼は誰も必要としない

知らない事は幸せで、知ってしまう事が不幸せと言うのように
彼の知らないは
決して無知からくるものではなく
最初から与えられなかったものに過ぎないのだから
彼はそれを知らなくても、幸せでいられる

何も感じないのだから

他の誰もが感じる嫉妬や不足感、感傷、妬み
そして孤独は、どれをとっても

彼にとっては無縁のものだった


けれど


"私だって、知り合いになんて
なりたくなかったわよ、カーティス=ナイル?"


その声が聞こえた時、無性に心が焦って、色が溶け出して
全ての色が、自分から消えてしまう衝動に駆られる

無縁なはずなのに
その声を聞くと、自分が欠陥品だと、思い知らされる


そして、いつの間にか、口にするようになって

何も感じないはずの心は大きく揺れて
冷たい指先は、まるで血が通っていないかのように感じて

過去に殺した部下への贖罪を
指先を見つめる事で、抑えようとした


"ねぇ"


"・・・え?"


声にならない声が、自分の心を一杯にした
まるで色褪せて何もない白いキャンパスに
一色で、色を塗りつぶされたかのように


歩く少女の姿の幻影が、自分の目の前に現れる
ここには 彼女はいないはずなのに

聞こえないはずの彼女の声が聞こえる

手のひらに握っていた、毛布を力なく、地上に落とした
これでは、どちらが、現実で夢なのか

分からない


"・・・それ癖なの?"

"癖?・・・そうですね、プリンセスがそうおっしゃるなら
そうなのかも、知れませんね"


欠陥品のくせに生きていて 贖罪を乞う為に嘘を付く

空に打ちあがる 打ち上げ花火のように消えたいと願いながら
いつまでも、消え残る 線香花火のような自分

長い長い夜
深い闇で覆われるこの時間が 長ければ長いほど
僕は、嘘を付き、ここにいなければいけない

ここに生きなければいけない


闇が明けて、朝が来て
僕ごと、消してくれればいいのに


どうせ、もう何も手に入らないのだから




"・・・必要のないものなら、消してしまえばいい"

"それは、持論?"

"邪魔なものが多いほど、欲しいものは手に入りませんよ"

"・・・そうかしら?"

"貴方だって、お金が欲しいから、モンスターを倒すんでしょう?
それは、貴方にとって必要だからだ、欲しいなら、倒して奪えばいい"


欲しいものは奪えばいい、手に入らないのなら
いっそ壊してしまえばいいと、ずっと思っていた

必要なものは、いつだって、この手で得てきたし
嘘をつく必要もなかった、自分にとって全て必要なものだったから

手に入らないものは、自分にとって不必要なものでしかないから
壊れても、壊しても、何も感じなかった

ずっとそう思ってきたのに
そう思ってきたのに


たくさんの血で、その手を染めてきたくせに
何の為に嘘を付く?


「・・・重症ですね、これは」

思考を止めて、ようやく、起き上がって、光の元に歩く
窓から零れる太陽の光は、細い線のように差しこんで
部屋を、細い影で分断した

闇に生きてきた者にとっては
何よりも敬遠したいものであるのに
なぜか、今はそれがとても欲しい

甘いリンゴを一つ、手にとって
甘酸っぱい香りとともに、口先で味わう

突然やってきたそれは、何も壊す事も奪う事もないのに
彼の心の中をかき乱して、焦らせたかと思うと
酷く落ち着かない気持ちにさせた

声が聞こえないだけで、イライラしたり
彼女がここにいないのに 彼女の幻影まで見たりして

意味もなく振り向いてみたり
それ自体を本当に愚かで、無駄がある行動だと
思う自分がいるのに
それでいて、今の自分にとって、何よりも肝心な事だった

ドアを叩く音と並行して、部下が一人
足音もそこそこに、部屋へと入って来る

気配で感じて、リンゴをテーブルに置く
椅子に座ると、目の前に部下がかしづいた


「・・・カーティス様、お疲れの所・・・」
「・・・それは良い、おまえが来る前には目覚めていたよ」


いの一番に聞くのは、いつもなら、部下たちのそれぞれが持っている
仕事であったり、商売の事であるはずなのに

今日だけは、違っていた


「・・・それで?」
「・・・プリンセスは、王宮で銀髪の長い北の・・・」
「・・・そこまでで、良いですよ、あとは分かりますから」
「・・・はい」


全てを聞かなくても分かる
彼女は、まだ、遠い初恋の中にいる


そして、僕と彼女の距離も遠い


「・・・アリク、推理ゲームをしようか?」
「・・・カーティス様?」
「・・・君がこれから、僕に伝える言葉と・・・僕がこれから伝える言葉」
「・・・カーティス様、私は、頭はあまりよく・・・」
「・・・何、簡単な事ですよ」


光と闇
相反するものが、出会うのは?


「・・・欲しいものはいつだって昼間にしかない」



今はまだ、彼女の声は聞こえない




   ◆act.2.75「夜の使者 昼の人/彼の声、近い恋」



「・・・アイリーン」

その声に振り向くと
声の主はスチュアート=シンクだった


「・・・お前、こんな時間に何をしているんだ?」
「・・・何って・・・本を探しに」
「・・・こんな遅い時間にか?」
「・・・そうよ、別に王宮を歩き回っていたって、変じゃないでしょ」
「・・・それはそうだが、本なんてお前らしくもない事を・・・」
「・・・あら、私は昔から読書家よ?」
「・・・ものは口ほどに・・・とはこの事だな」
「・・・な・・・スチュアートこそ、こんな時間に何をしてたの?」
「・・・わ、私か、私はその・・・仕事だ、仕事の他に何がある」
「・・・仕事ね」

口の悪さは変わらない
相変わらず昔と同じだなと、彼の顔を見つめる

「・・・な、何だ、言いたい事があるなら」
「・・・別に、何も」


幼い時、好きだった幼馴染は

背丈と声、顔の輪郭、ガタイ
目に見えるものは変わったくせに
中身は一つも変わっていない

ちょっとおかしくなって、声を立てて、思いきり笑って
ほんの少しでも スチュアートを 好きだった気持ちを思い出す


取り戻せない"遠い初恋"

あの時、芽生えた淡い気持ちと思いは
遠い過去に 記憶と一緒に置き忘れてしまったかのようで

もう、関係なくなっていた


「・・・何だ、言え」
「・・・本当に何でもないってば」
「・・・何で笑ってるんだ」
「・・・何だか、おかしいから」
「・・・変な奴だ」

好きだとか嫌いとか
そう言う事はまるっきり関係なくて
今は笑って、話が出来る

「・・・部屋に戻るのか?」
「・・・そうよ、こうしてふらふらしてると、どこかの
誰かさんが声をかけるでしょ」
「・・・お前、明日、また一人で金稼ぎに行くつもりか?」
「・・・金稼ぎ?モンスター退治の事?」
「・・・あぁ」
「・・・そうだけど、どうして?」
「・・・お前が一人じゃ、危ないだろう?明日は、そのたまたまだな
本当に、たまたまだが、予定が空いている」
「・・・へぇ」
「・・・あぁ、空いているんだ」
「・・・うん?それじゃ」
「・・・・・・・」
「・・・?」
「・・・って、お前、人の話聞いてるのか?」
「・・・え?聞いてるけど・・・」
「・・・空いているから、お前のモンスター退治に
付き合ってやる、と言ってるんだ」
「・・・別に平気よ、ライル先生から、モンスター退治の
倒し方とか教えてもらったし」
「・・・つくづく、お前、素直じゃないな」
「・・・素直じゃないって言われても・・・・・」
「・・・本当に中身は変わってないな」
「・・・そっちものでしょ」
「・・・明日、付き合ってやる」
「・・・何、進歩したの?」
「・・・お前よりは、な」
「・・・気持ちだけは、受け取っておく」

もう、取り戻せない"遠い初恋"

自分の足音だけが響いて、かすかに揺れる明かりの光が
頼りなく廊下を灯す

深い夜
儚い時

全て、昼間には持ち合わせていないもの

夜と言う時間を知ってから、その長いようで短い一瞬の儚さに
どこにも誰にも、盗まれないようにと
必至で、隠し持っていたい気持ちにさせられた

夜の世界を知ったのは、"あの人が仕事をしているから"


彼の鮮血の赤の華やかさに、引き寄せられて
手繰り寄せようと手を伸ばしたら

"・・・プリンセスは、昼間の人でしょう?"

と触れさせてくれなかった


"・・・最近気づいたの、夜って儚いのね、まるで打ち上げ花火みたい"

と彼に言ったら


"僕には、夜がとても長くて、早く明けてしまえば
いいと、いつも思いますよ"

と返される


ずるい人


そして


窓の外を見上げる、神々しいほど真っ白な月
満月まで、あと少し

少しだけ欠けた、中途半端な満月


昼間の住人が夜の世界に落ちる
眠らない日々が多くなった  月明かりにいる事が増えた

月を見上げて、いつも思う
彼はずるい人、そして


"・・・プリンセス、貴方とは住む世界が違うんですよ"


"・・・どうして?"


"同じ世界でも、貴方が眠っている時に、僕がいて
僕が眠りに着く頃に貴方はこの世界にいる"


"・・・なら、私が光で、カーティスが闇?"


"面白い例えですね"


"・・・でも、本で読んだの、光と闇の相反するものが
必ず出会う時間がある"


"・・・出会う時間?"


昼間が夜に変わる瞬間、光は終結し、闇へと落ちる


"だって、もし、昼間が夜に逢いたくなったら、どうするの?"


その答えは?


「・・・夜」

鮮明な赤

夜の闇の中
廊下の奥から、赤い髪が覗いて
気配を感じさせないままに、彼が現れる

月明かりと頼りない灯りのせいで、彼の表情がよく見えない

「・・・どうして、ここに?」

「・・・会いたくなったから、じゃ不足ですか?」

「・・・不足じゃないわ」

「・・・奇妙な事を言ってるなんて、思わないで下さいね」

「・・・・・」

「・・・僕は、思ったら、すぐ、行動するたちなんです」



"・・・アリク、推理ゲームをしようか?"
"・・・カーティス様?"


「・・・貴方が、起きているのを、僕は知ってましたよ
今まで何をしてたかもね」


"・・・君がこれから、僕に伝える言葉と・・・僕がこれから伝える言葉"


「・・・差し入れがあったわ、それはカーティス、貴方?」
「・・・ええ、さすがプリンセス」
「・・・でも」
「・・・食べなかった、そうでしょう?」
「・・・食べなくても・・・」
「・・・貴方は起きていた、とでも言いたいんですか?」
「・・・そうだとしたら?」
「・・・いえ、それはないと思いまして」
「・・・どうして?」
「・・・こんな遅い時間、夜に起きていたって、貴方には
何一つ面白い事はないはずでしょう?あるのは、殺戮
・・・そして、誘拐だけだ」
「・・・カーティスは起きているじゃない」
「・・・それは、夜は僕の時間だからですよ」
「・・・私も夜に落ちたわ」
「・・・夜は、貴方とは反対の持つ世界ですよ」
「・・・反対?」
「・・・悪者」
「・・・カーティスみたいな?」
「・・・そうです」
「・・・知ってるわ」


ページをめくると現われる主人公とプリンセスは
どの本をめくっても、昼間にしか現れなかった

そして、プリンセスをさらう悪者も


「・・・可哀そうなプリンセス、これから、どうなってしまうんでしょうね」


夜に現れる物語は、初めてで


「・・・どうなるの?」
「・・・それを僕に聞くんですか?」
「・・・聞くわ」


先が見えない


「・・・面白い」


いつだって、その声は近くに聞こえていた
闇に溶けて 消えてしまいそうな 

やや低い低音ボイス

なのに、その声は、どこかしら甘い


その背後に深い闇があって、これからどうなるかも
分からないのに、覗いてみたくなる


「・・・部屋には戻れないでしょうね」

スチュアートと別れて、部屋に続く廊下を一人で歩いた夜
星のない夜
月明かりだけがまぶしい

ほんの少しだけ、開いた窓が
まだ少しだけ、冷たい風を連れて 
振り向きざまの髪を揺らし、頬を撫でていく


光と闇
相反するものが、出会うのは?


「・・・欲しいものはいつだって昼間にしかない」


月明かりの先に流れるのは、赤い髪
ほそりとした体が、その正体を彼女に知らせる

長いようで短い夜が始まり
儚いようで、途方もなく、残る夜の一瞬が
物語の序曲のように広がる


「・・・ねぇ、アイリーン」

その声に振り向こうとして
焦点を一点に集中させようとする

風も優しい
音もしない

他に何も聞こえない


「・・・貴方はどうなんでしょうね?」


声が聞こえたと同時に意識を失う

長い指先が彼女の視界を覆った


「・・・何だ、貴方も嘘つきですね」


ポケットから、零れ落ちたのは差し入れのマカロン


横たわる彼女を抱きかかえて、月を仰ぐ

今もまだ、彼女の声は聞こえない






Cherry blossom petals and your tears




急に、いつもとは 違う事を言い出すから
期待してしまった
性格上、よくよく考えたら、当たり前な事なのに
この落ち込みようったら、言葉に出来ない




                    ◆




見渡せば、春
季封村にも、季節はやって来る

山に覆われたこの村は、他のどこよりも雪深く
冬は寒いが、その分、春を何倍も味わえる


ほんの数分前

突然、家にやってきた珠紀が
迷わず、俺の傍まで、やって来ると、嬉しそうに言った


「・・・先輩、春ですよ、花見ですよ!」
「・・・・・・・」
「・・・どうしたんですか?」
「・・・突然、俺の家に来て、言う言葉が、それか」
「・・・え?駄目ですか?」
「・・・駄目じゃねーけど・・・まぁ・・・お前らしいな」

少し脱力して
彼女の顔を見ると、自分の顔が赤くなっている事に気づく

受験冊子を片手に出てきた俺に、励ましの言葉か何か
言いにきたのか思っていたから、拍子抜けだ

「・・・それよか、お前、今日は学校だったんじゃないのか?」
「・・・終わってから、すぐ来たんです」

"何だよ、そんなに俺に会いたかったのか"

・・・と言いかけて
胸の中に、言葉をしまう

逢いたいと思う気持ちは、自分も同じだ

「・・・花見、行くか?」
「・・・はい」

受験の冊子を玄関に置くと、靴を履き替える
多分、このまま外に長居する気がして、玄関の扉に鍵をかける

「・・・春ですね」
「・・・そうだな」
「・・・ここに来るまでに、満開の桜の木を何本も見たんですよ」

前を歩く彼女は、危なっかしい

ほっとけば、風にさらわれるか
こけてしまいそうなアンバランスさだ

「・・・おい、珠紀、ちゃんと、前見て歩け、こけるぞ」
「・・・む、ちゃんと、前、見てますよー」

歩く道筋には、もう既に散った桜の花びらが
あちこちに落ちていて、春だと言っても、終わりを予感させる

ふらふら、と彼女が不安定に揺れて
思わず、手が伸びる

「・・・珠紀」
「・・・真弘先輩」
「・・・お前は・・・言ってるそばから・・・」

指先が絡んで、彼女を捕まえる
一瞬、お互いが無言になって、顔を見合わせる
急に恥ずかしくなって、掴んだ手のひらを離そうとすると
彼女が笑った


「・・・こう言うのも、良いですね」


重なる手のひらの熱が、急に上がった

ただ、手をつないでいるだけなのに
こんなにも動揺してしまう自分は、何だか滑稽で
でも、少しくすぐったい

風が吹いて、近くの桜の木を揺らした
花びらが風に舞って、いくつもいくつも 花吹雪のように落ちてくる

昔、桜の花びらを
地上に落ちる前に捕まえて、願い事を言うと叶うと
誰かが言っていた事を思い出す

あの時はまだ、自分が自分ごと変えてしまう誰かに
会えるなんて、全然信じていなくて

毎日、拓磨や祐一と日が暮れるまで遊んだり
卓さんに怒られたり

目の前にある、毎日と過ぎゆく日々がキラキラしていて

そして
いつも心のどこかで 守るべき姫の名を呼んでいた


「・・・珠紀」
「・・・はい」


風が相変わらず、降りやまなくて
花吹雪は、空から落ちてくる雪のようで

風に揺れる彼女の髪は、彼女の頬を隠して


春であるのに冬のようで

始まりを告げる予感で満ちているのに
終わりを呼んでいるような気がして

「・・・俺・・・」
「・・・真弘先輩は、他に好きな人がいるんですか?」
「・・・は?」
「・・・もし、そうなら、応援しますから」
「・・・え?な・・・何だよ、それ」
「・・・独り言です」

繋いでいた指先が急に冷たくなって
あんなに熱いと感じた、彼女の手のひらが、一瞬で
桜の花びらでかき消されてしまったかのように感じた


何で、花見なんて言い出したんだよとか
どうして俺を誘ったんだよとか

言いたい言葉がたくさん浮かんでくるのに、一言も口に出来なかった


"・・こう言うのも、良いですね"

なんて

急に、いつもとは 違う事を言い出すから
期待してしまった
性格上、よくよく考えたら、当たり前な事なのに
この落ち込みようったら、言葉に出来ない


「・・・真弘先輩、どうしたんですか?」
「・・・いや、何でもねぇよ」
「・・・何でもないなんて、顔してませんよ」
「・・・なら」
「・・・真弘先・・・」
「・・・お前のせいだ」

冷えた指先を手繰り寄せる
彼女の細い身体が、自分の元へと引き寄せられる

長い髪先が、視線の先を移動して
彼女の口先に触れる

「・・・ん・・・」

一瞬、驚いた顔の彼女の瞳に俺の姿が映って
泡のように儚く消えた

花びらが舞う

あてどなく 降り止むことなく
ひたすらに降り続けて

指先を絡め直すと、引き寄せた時に感じた冷たさが
今はもう、熱へと変わっていた

「・・・んん・・・」

無理に引き寄せた彼女から、抵抗を受けるかと
思ったのに、そのまま深く深く、俺の口先の侵入を許した


口先が離れると、彼女は泣き顔で
やっぱり、俺の事が・・・と落ち込みそうになると
全然、関係ない事を口にした


「・・・せ・・・先輩は・・・っ、私の事なんて好きじゃないのに・・・」
「・・・は?」
「・・・先輩は・・・美鶴ちゃんの事が・・・好き・・・なのに」
「・・・美鶴?」
「・・・だって・・・前に・・・美鶴の方がって・・・だから・・・私・・・」
「・・・だから、お前、さっき、あんな事を・・・」


"・・・真弘先輩は、他に好きな人がいるんですか?"

"・・・もし、そうなら、応援しますから"


「・・・あんな事って・・・私・・・本気で・・・っ」
「・・・お前は・・・」
「・・・私は・・・先輩が・・・」
「・・・おい、勝手に俺の気持ち決めるな」
「・・・だって」
「・・・好きな奴ならいる」
「・・・やっぱり・・・だったら・・・」
「・・・お前」
「・・・え?」
「・・・俺が・・・本気で・・・落ち込みそうな顔するなよ」

強く強く、彼女の身体を引き寄せる
涙があふれる目元にキスを落とすと、不安そうな顔で見つめ返してくる
その不安そうな瞳を安心させるかのように、彼女に言う

「・・・俺には・・・お前が必要なんだよ」


桜の花びらを地上に落ちる前に捕まえて
願い事を言うと叶うと教えてもらった
幼いあの時

自分が、誰かにとって必要で
誰かを必要とするなんて、思ってもいなかった

守るべき姫の為に生き、その身を捧げる事しか考えていなかった

ましてや、誰かの為に生きる事も
一生、こいつの為に生きるんだと思う事も


でも、確かにあの時
その手のひらには、桜の花びらがあって

俺は迷わず、願い事を 言っていた


"・・・真弘、桜の花びらを取ったのか?"

"すげー、願い事は、何にするんすか?"

"・・・拓磨、願い事って言うのは、秘密にするのが鉄則だろ"

"あぁ、そっか・・・"

"・・・でも、教えてやっても良いかな"


「・・・珠紀の為に生きる」


彼女の不安そうな顔が、笑顔に変わって、思わず
彼女の口先にキスを落とす

髪先についた花びらが落ちて、手のひらに落ちてきた
その花びらが落ちないように、彼女が両手で花びらを掬う


「・・・私も先輩と一緒が良い」


結局、花見をする前に、日が暮れて
花見は、また次回になったけれど
お互いの気持ちを確認できた今は、それはそれで良い

手のひらの熱を確認しながら、夜の道を歩く傍ら
どうして、美鶴が好きだなんて、誤解したんだと聞けば

「・・・真弘先輩と美鶴ちゃん、よく、喧嘩しているし
先輩は美鶴ちゃんの料理を褒めるから・・・」

・・・なんて、こっちが赤くなりそうな言葉を口にした

「・・・お前な、美鶴は小さいころから知ってるし、妹のようなもんだろ」
「・・・妹でも・・・構われてる方が良い」
「・・・お前は俺と喧嘩したいのか?」
「・・・ケンカするほど、仲が良いって言う・・・」

少し赤くなった、泣きはらした顔に不意打ちで、もう一度キスを落とす

「・・・っん・・・真弘先輩・・・っ」
「・・・美鶴とは、こんな事しないけど?」
「・・・意地悪・・・・」

きっと帰ったら
珠紀好きな美鶴に、俺が逆に苛められそうだ

だから、今は思いきり、彼女を苛めたい






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レーゾンデートル




足音は冷たい闇に散って消える

夢と現の間
たゆたう 眠りの中で 

ほんの僅かに 指先を 過去の傷跡に滑らすと
痛みだけが淡く残る

哀しいとか 空しいとか
どこかに捨てたはずなのに

それでも 掴んだ君の手のひらは
あの時と変わらずに 温かかった



                         ◆



ここは、とても静かで、落ち着く
受験勉強には、ぴったりと思ったこの場所には

たくさんの本がある


天気は"晴れ"


強い日差しに遮られることもなく
・・・かといって、薄暗い空間を
ほのかに照らす明るさは、本を読むのに適している

近くの窓辺に腰掛けると、お気に入りの本を捲る
視線の先には、夕暮れと少女の姿



ふと、昼間の事を思い出した




            ◆act.1「君に、恋をしている」





心地よい風が頬をなぐ
葉がこすれあう音と同時に 聞き慣れた声が耳に入ってきた


「な・・・?そう思うだろ、祐一」


突然、その声が自分に向いて、一瞬驚いて、思わず、うなづいた

「・・・何だよ、また、ぼーっとしてたのか」
「・・・真弘先輩、急に声掛けたら、誰だって、びっくりしますよ」
「・・・こいつは、話しかけないでいると、寝てるからな」
「・・・良いじゃないですか、昼休みなんですから、寝てても」


薄い目をこする
目の前には、焼きそばパンをかじる少年と、姫と呼ぶのに相応しい彼女

彼女は少し、笑っている


「・・・珠紀」
「・・・はい」
「・・・どのくらい経った?」
「・・・え?あ、昼休みは、まだ始まったばっかりです」
「・・・そうか」
「・・・何だよ、祐一、まだ、寝ぼけてんのか、もう昼だぞ」
「・・・そうかもな」

夢を見ていた
酷く哀しい夢

自分が昔、妖狐の姿になった時の事を
必要とされなかった過去の事を

誰も来ない廃屋
力を抑えきれなかった自分
嘆いても 悲しんでも 何も変わらない

ポツンと、一つ小さな闇が足音もなく、傍にあった

このまま、壊れていくのだと確信した時
自分に寄りかかる温かさが、自分をここに繋ぎ止めた


「・・・祐一先輩・・・大丈夫ですか?」
「・・・え?」
「・・・酷い汗ですよ」


おでこに触れる、彼女のてのひらの熱が
触れた先から、伝わってくる

熱いわけでもなく、冷たいわけでなく
あの時と変わらない その彼女の熱

「・・・あぁ・・・大丈夫だ・・・直に治る」
「・・・祐一、無理すんな、医務室にでも行ったらどうだ?」
「・・・いや・・・無理はしてない」


屋上から見る 空の青はとても深くて
揺れる葉は、音を連れてくる
風に舞う 花は色を運んで

指や髪 肩から耳に零れおちて
何か消化できないものに変わっていく

身体の内側にたまっていって 


「・・・そうやって・・・昔からだな、本当」
「・・・何がだ?」
「・・・そうやって、言葉にしようとしない」
「・・・・・・」
「・・・祐一は」


心配そうな彼女の顔が微かに見える
それは、今に始まったことじゃない


「・・・この勝負だけは、真剣勝負で行こうぜ」
「・・・真弘?」
「・・・俺も・・・この勝負は譲る気がないんだ」
「・・・・・」

どんなに上手い言葉が見つからなくて
その気持ちに どうしても追いつけなくなっても

何も消化できないものになっても


「・・・真弘先輩?祐一先輩?どうしたんですか?」


彼女がいないと 守るべき君がいてくれないと


「・・・俺も譲る気はない」



"生きていけないだろう?"



「・・・先輩?」


そうして、心をこぼさないと


「・・・祐一、少しは・・・言葉にしないと・・・俺が貰って行くぜ」


そうして、言葉にしないと


「・・・真弘、お前こそ、少しは本音を、言葉にしたら、どうだ」
「・・・いつだって、俺は、本当の事しか口にしてねーよ」


お互いに心が壊れて 破裂してしまうから


「・・・あの・・・」
「・・・珠紀」
「・・・真弘先輩?」
「・・・今度、花見、一緒に行こうな」
「・・・は・・・はい・・・」
「・・・あと、よろしく」
「・・・え?」
「・・・祐一の事」
「・・・真弘先輩・・・っ」

後ろを振り返って、軽く手のひらを上げる真弘の姿が見える
あいつはいつも、そうだ

言葉にしないのは、お互いさまで

俺が無口なのは、人と関わり合うのが苦手なだけで
真弘は違う

そう、真弘は、本気で彼女が好きなんだ
そして、彼女を守ろうとしている 自分の命と引き換えに

俺の珠紀への気持ちは


「・・・・・・・・」

残された彼女の姿が映る
少し赤みがさした頬 取り残されて、今にも泣き出しそうな

強い琥珀のような色の中に 切なさが揺らいで見えた


言葉にしなくても
彼女の答えは出ている


「・・・真弘、お前はいつでも・・・そうやって昔から」


寄りかかる壁に背中を預けて、深い青の空を見た


お互いに 切ない恋をしている





               ◆act.2「夕暮れの告白」





開かれたのは、放課後
出会ったのは夕暮れ時


「・・・お前は勉強か?」
「・・・はい、少しは勉強しておかないと・・・拓磨の奴に言われますから」
「・・・先輩は?」
「・・・借りたい本があったから、ここに」
「・・・図書室って、本当に落ち着きますよね、良い場所です」
「・・・あぁ」
「・・・真弘先輩に、図書室に行こうって誘ったんですけど、俺には
図書室は、静かすぎるし、本なんて読むのは、祐一だけで良いとか・・・
何とか言って、結局、逃げられちゃいました」
「・・・真弘らしいな」

夕暮れに差しかかるグラデーションのような色が、机の端に影を差す
いくつかの本を手に取りながら、彼女に声をかける

「・・・そう言えば、玉依姫として、お前に初めて会ったのも、図書室だったな」
「・・・はい、初めて会った時は、とても綺麗な人だなって・・・先輩の事」
「・・・それだけか?」
「・・・え?」
「・・・お前は他に何も思い出さないか?」


誰も来ない廃屋
たった一人の自分
嘆いても 悲しんでも 何一つ変わらない
恐れる事しかできないのその姿

ポツンと、一つ小さな闇が足音もなく、傍にあった

このまま、壊れていくのだと確信した時
自分に寄りかかる温かさが、自分をここに繋ぎ止めた


「・・・祐一先輩?」


君が俺を
ここに 繋ぎ止めた温かさは
今も、昔も 何も変わっていないのに


「いや・・・そうだな、図書室が始まりだったな」
「・・・え・・・あ・・・はい」


何故だか、急に胸が苦しくなって上手く言葉にできなかった


「・・・勉強しますね」

彼女が、そう口にしてから、1時間ほど経って
グラデーションのような色が、完全に夕暮れ色に変わった

ここは、とても静かで、落ち着く
受験勉強には、ぴったりと思ったこの場所には

たくさんの本がある


天気は"晴れ"


強い日差しに遮られることもなく
・・・かといって、薄暗い空間を
ほのかに照らす明るさは、本を読むのに適している

近くの窓辺に腰掛けると、お気に入りの本を捲る
視線の先には、夕暮れと少女の姿


「・・・本に何でも書かれていたら・・・きっともっと上手く
彼女と向き合えたんだろうか」


眠る少女の上にかかる、夕暮れ色は、彼女の上に
まるで薄い紗をかけたかのようで

幕の向こうには、自分の姿が見えなかった



"・・・そうやって・・・昔からだな、本当"
"・・・何がだ?"
"・・・そうやって、言葉にしようとしない"
"・・・・・・"
"・・・祐一は"


窓辺から降りて、読んでいた本を置くと
眠る彼女に近づく

とたんに過去の記憶が、鮮明に はっきりとしてきた


妖狐としての俺を恐れることなく、その温かさを分けてくれた君


自分をここに生かしてくれた 彼女


そして、自分の守るべき少女


姫としてではなく、一人の少女として


「・・・珠紀」
「・・・ん・・・」


足音は冷たい闇に散って消える

夢と現の間
たゆたう 眠りの中で 

ほんの僅かに 指先を 過去の傷跡に滑らすと
痛みだけが淡く残る

哀しいとか 空しいとか
どこかに捨てたはずなのに


彼女の手のひらに触れる


掴んだ君の手のひらは
あの時と変わらずに 温かかった


"・・・この勝負だけは、真剣勝負で行こうぜ"
"・・・真弘?"
"・・・俺も・・・この勝負は譲る気がないんだ"


机に、自分の手のひらを置くと、そのまま上体を下げる
彼女の長いまつげが揺れた

彼女の口先に深く、触れる

それは、ほんの一瞬であるはずなのに
何故だか、上手く 息が出来なかった


「っ・・ん・・・祐一・・・先輩・・・」

深く触れたせいで、口先から、長い糸を引いた
彼女の瞳が目の前で大きく揺れる

ほのかに赤い顔が、苦しい胸をさらに締め付ける
抵抗にも似た彼女の動きに

離そうとしていた自分の中の気持ちが、別のものに弾けた


「・・・あ・・・っ・・・ん・・・や・・・」


その声も耳に届かないほどに、彼女の口先に深く侵入していた

舌先が絡んで、彼女の声が、自分の口先の中に落ちる


「・・・やだ・・・っ・・・祐一先・・・」


どん、と力強い手のひらが、肩を押して、ようやく離れる

少し荒い息の彼女が、泣きそうな目で俺を見る


「・・・どうして・・・」
「・・・お前は・・・何も思い出さないか?」
「・・・え?」
「・・・昔・・・出会った事」
「・・・昔・・・・」
「・・・廃屋で・・・」
「・・・廃屋・・・・」
「・・・いや、何でもない・・・すまない・・・忘れてくれ」
「・・・忘れてくれって・・・こんなの」
「・・・分かっている・・・お前が好きなのは」
「・・・祐一先輩・・・」
「・・・ずっと冗談にして、忘れるつもりだった・・・だから
何が本気で、何が本音か分からなくなってた」
「・・・祐一先輩・・・これも、冗談で、嘘なんですか?」
「・・・嘘で・・・そう、俺の夢」


思い出してもらえない事に、悲しくて
何が本音で、何か本気か分からなくて、でも
君を好きだと、言う気持ちからは、逃げ出せなかった


本当は、君が誰が好きなのかを知っていて



"・・・祐一、お前、珠紀の事、好きなんだろ?"

"・・・真弘?"

"・・・なら、何があっても珠紀は大丈夫だな"

"・・・・・"

"祐一がいるから安心だ"



それでも、心をこぼさないと
言葉にしないと、君が離れて行ってしまう気がして


「・・・夢?」
「・・・あぁ」
「・・・祐一先輩、そんなの・・・」
「・・・珠紀、俺はお前が好きだ」
「・・・私・・・」
「・・・あぁ、知ってる、でも・・・好きだよ」
「・・・・・」
「・・・真弘にも伝えておいてくれないか?」
「・・・え?」
「・・・お前も、正々堂々と真剣勝負しろって」
「・・・・・・」
「・・・そうしないと、俺が珠紀を奪うって」


いつまでも、記憶の片隅にいられるほど
強烈に、誰か一人心の中に居続けると言う事は、きっと
とても難しい事で

せわしなく日々が過ぎる中で
許容量が超えてしまわないように、人はどこかで
何かを一つずつ、忘れていって、新しい何かを
その胸の中に留めていく

例えば、この胸の中にある、この君との過去が
僕だけの中にあるとしたら
それを無理に消してまで、忘れる事はない

それは、本当に自分にとって大切なものなら

「・・・珠紀」
「・・・・・・・」
「・・・さっきのキスは忘れていい」
「・・・どうしてですか・・・」
「・・・お前には必要のないものだろう?」


この図書室に来た時、嬉しそうに笑った彼女が
口にした言葉が、俺の名前でなく
あいつの名前だったから

俺は、もう、そこで分かっていたのかもしれない


「・・・俺は、お前が誰を好きでも、お前を守る」


自分じゃない事に


「・・・祐一先輩、私も、祐一先輩が好きです」
「・・・あぁ、知ってる」
「・・・だけど、私も、先輩と同じように守りたいものがあるから」
「・・・あぁ」
「・・・でも、今のキスは・・・忘れません・・・」
「・・・あいつなら、屋上だ」
「・・・祐一先輩、ありがとう」


心配そうな顔がにこりと笑った
彼女が荷物を手に取ると、図書室を走りだす


そして、俺はいつもと同じ窓辺に腰掛ける
見上げる空は茜色

同じ空だと言うのに、昼間、あんなに深い青だった空が
今は、とても綺麗な夕暮れで
そして、とても 泣きそうだしそうな色にも見えた


今まで埋まっていた 彼女でいっぱいの
思いの場所は、空っぽで 

中身はどこへ消えてしまったのだろうと思うほど


遠くから見上げる 空の色はとても哀しくて
揺れる想いは、気持ちを連れてくる
風に凪ぐ 窓際は、本のページを捲り

指や髪 肩から耳に零れおちて
身体の内側にたまっていく

ポタリと落ちたものが中心から、外側に広がって
その気持ちごと溶かしていく

いっそのこと
ポタリと落ちたものが涙だったら

どんなに良かったのにと、必死で思った


「・・・好きだよ、今でも」


次に会う時には、彼女に 笑顔で会えるだろうか







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